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日本人が英語が話せない理由 【現状把握編】

20世紀の終わりにカナダ留学をして以来、長年抱き続けた「世界の人々は英語が話せる人が多いのにどうして日本人はいくら英語を勉強しても話せないのか」というモヤモヤした疑問について2014年になってようやく向き合おうと思い世界中にいる友人たちに協力してもらいリサーチいたしました。そもそもなぜようやくこの疑問に正面から向きあおうと思ったのかというと英語業界への転職活動において履歴書に加えカバーレターに自分のPRと志望動機を書くためになぜ日本人が英語が苦手なのかの要因解析を行ったことがきっかけでした。そのリサーチをやり始めたら自分でも予想しなかった仮説が浮かび上がり長年の疑問が少しずつ晴れてくように感じられました。まずは原因把握を行い問題がどのような構造によって成り立っているかを理解することが問題解決の早道となります。本リサーチには品質管理の手法を用い要因解析を行いました。話せるようになる方法もありますのでご心配なく。

 

結論から先に書きますと日本人が英語ができない理由は文部科学省が力を入れようとしている英語教育にあるというよりは書いたり話したりといったアウトプットの機会が少ないことが一番の原因のようです。具体的に説明するとアウトプットを少なくしている原因には3つあります。(アウトプットを増やせば覚えたことが記憶に定着できるので話せるようになります!)

 

(1)日本文化(謙虚さ、同調圧力、会話文化、ナショナリズム

(2)経済的要因(GDPの85%が内需、15%が外需)

(3)高度な翻訳文化

 

(1)の日本文化の影響によりアウトプットが抑制されてしまう要因には4つあります。(a)謙虚さ、(b)同調圧力、(c)会話文化、(d)ナショナリズム

 

英語を学んでも謙虚さのためなかなか英語が人前で話せずアウトプットができない方をよく見ます。海外では自己主張をするのが当たり前なのですが、日本人は謙虚さが美徳のため自己主張をしてしまうと周囲から白眼視されてしまうので自分の意見がなかなか言いづらい。さらに同調圧力のためクラスで人と違った意見を言うことを躊躇してしまうこともあるのではないでしょうか。本来、人は個性的であると思うのですが日本では個性よりも全体に従うという慣習があるので臆してしまってアウトプットができなくなってしまう。友人間では自由に話ができるので個と全体の使い分けに加え信頼関係が希薄な状態では意見が言いづらいのだと思います。日本の会話文化もアウトプットを抑制する要因になっているようです。日本の会話文化は発言する順番があたかも決められたように回ってきます。この自然と回ってくる順番を日本のクラスでは先生が生徒を当てることで「会話」が成立しています。順番が来るまで生徒は黙っているというのが日本では当たり前ですが欧米では自分からクラスに参加しにいくのが常識。欧米のクラスで日本人留学生は概して沈黙を続けてしまう。自分から発言をすることがほとんどない。このため授業には出席していても参加していないのでアウトプットをする機会を逸してしまい留学してもあまり話せないということになってしまう方が多数いらっしゃいます。また一番厄介なのがナショナリズム。日本で育った大抵の日本人に共通しているのが外国人に対する抵抗感。外国人に対する抵抗感がこれほどあるのは日本人くらいのような気もします。お隣の韓国には日本ほどの抵抗感もないようですし台湾にもそれほどないように見えました。もし抵抗感がなければ日本に外国人がいるので自分から英語を話す機会を作ることができると思うのですが、自分から外国人に話しに行く方に出会ったことはほとんどありません。この「抵抗感」の正体を解き明かるのはまた別にリサーチしなければならないと思うので別の機会に。

 

(2)次に経済的要因がアウトプットの少なさにも貢献している。仕事で英語を使う機会のある方は海外ビジネスに関係している方が多い。しかし英語を実際に学ばれた方の中でよくある不満の1つが仕事で英語を使わないというもの。それについて日本でどのくらい英語が必要な仕事があるのかをざっくりと知るために外需がGDPのどれくらいを占めているのかを調べてみました。孫引きになるが統計は2006年のもの。

 

新世紀のビッグブラザーへ 日本経済は本当に外需依存?

 

日本の輸出対GDP比率(外需)は14.8%。輸出と輸入を合わせた貿易対GDP比率が28.1%。お隣の中国の輸出対GDP比率は36.6%、貿易対GDP比率が66.6%。日本の2倍。韓国は輸出対GDP比率が36.7%、貿易対GDP比率が71.5%。日本の2倍以上。経済規模からすると中国や韓国の方が日本より仕事で英語を使う機会が多い。日本はざっくり計算すると海外で外貨を稼ぐのは10人中2人以下。それくらいしか英語を使わない。

 

 

(3)日本の最大の特徴は高度な翻訳文化があることです。お隣の韓国には翻訳文化がそれほどなく文献を読む際に英語や日本語で書かれた原書を訳さずそのまま読むそうです。日本で当たり前としている「哲学」や「自由」などの漢字は明治期の知識人が西洋の概念を日本語にする時に悩みながら漢訳した言葉です。自然科学や社会科学の教科書を読んでも日本語として読めるのは明治時代の翻訳文化のおかげでその文化を現在の日本も受け継いでいます。ただし現在の翻訳文化は外来語をカタカナとして訳していますが。このように高等教育を受ける際にほとんどのテキストが日本語で書かれているため英語を学ぶ必要性があまりないのが現状。これは英語圏にネイティブさんたちが英語が読み書きできれば世界のどこでも英語が通じてしまうので英語以外の外国語を学ぶ必要をあまり感じないのと似ていると思います。このように海外から入ってくる情報がすべて日本語に翻訳されてしまう文化があるため英語を学ぼうとする意識も低くなっているようです。

 

ちなみに日本の翻訳文化についてのトリビアがあります。中国語には日本語と同じ漢字が使われていることに気づく方が少なくないと思いますが岡田英弘先生も指摘する通り明治期の日本人が西洋の知識を漢訳したのを清朝末期の中国が輸入し中国を近代化させようとした結果、中国語には日本語と同じ語彙が多数見られるのです。日本が中国から漢字を輸入しその後中国が日本から西洋の最新技術を漢訳した漢字を輸入したという相互関係の歴史をが日本語と中国語にあることが日中両国民に再び理解されればお互いを尊重し合うようになるのかなと思います。

 

この厄介な国、中国 (ワック文庫)

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このような日本文化、経済的要因と翻訳文化という上記3つの要因がアウトプットを阻害する3大要因になっているというのが私の仮説です。この仮説をベースにしてどうやってアウトプットを増やして英語(他の外国語も)話せるようになれるのかというのが現状把握の次の段階になります。原因解析をしている中でモヤモヤとした疑問は、文部科学省がどうして英語教育にばかり焦点を当て英語を話す機会を増やそうとしないのかなということでした。