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【書評】安西徹雄『英文翻訳術』

現在、安西徹雄先生の『英文翻訳術』(ちくま文芸文庫)という書籍を読んでいます。この書籍は、英語の翻訳を従来の直訳調から脱皮して原文の思考の流れを止めず前から順に訳していく技術について書かれています。

さまざまなことが書かれていますが、その中でも生成文法の理論が翻訳にも応用できるという点に目からウロコでした。E.A.ナイダという方が生成文法の理論を応用して聖書の英語を分析した結果、6から12の基本文型を発見したとのこと。つまり、さまざまな英文の基本となる文章は最大12通りしかなく、すべての文章はその基本形の応用。複雑な文章も基本形に直して翻訳を行うと良い翻訳が可能となるそうです。そこから先は、自分がどれだけ良い文章を読んできたかが問われます。

英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)

英文翻訳術 (ちくま学芸文庫)

 

翻訳の手順は以下のステップを踏むと良い翻訳ができます。

①原文の思考の流れを止めずに原文に忠実に翻訳する。
②原文をそのまま訳すのではなく、一度原文を解体して分析をし、基本文型に直し、思考の流れを理解する。
③日本語の構造に置き換える。

 

例文を挙げると以下の通りになります。翻訳は自分で行いました。

"The protests in Hong Kong have fuelled Taiwan's distrust of China" (The Economist)

この文章の基本形は2種類の核文によってなりっているようですね。

 ①The protests in Hong Kong have fuelled
 ②China doesn't trust Taiwan

 

2番目のTaiwan's distrust of Chinaの主語はChina。動詞がdistrust (doesn't trust)、目的語がTaiwanという関係になっています。ofの使い方がポイントです。

※英文法に関しては、『英文翻訳術』の中でかなり説明されていますが、安西先生も紹介されている江川泰一郎先生の受験英語の定番になっている参考書『英文法解説』(金子書房)に詳しく紹介されているので、そちらを参考にされるとよろしいかと思います。受験英語の文法読解は、翻訳者レベルの読解方法なので文法が難しいと思う学生が多いのではないでしょうか。本来の英語学習は、それほど難しくありません。

 

私の訳で恐縮ですが、原文の思考の流れを変えず、基本形に直して適切な日本語に置き換えるとこうなります。

「香港オキュパイセントラルの影響で中国政府はさらに台湾に疑いの目を向け始めている。」

 

原文にある通りに直訳調で翻訳すれば、「香港のデモ参加者が中国の台湾への不信感に拍車をかけた」となると思うのですが、原文を分解し基本形にしてから翻訳したほうが日本語として自然に聴こえそうですね。

 

『英文翻訳術』は本当に素晴らしく、翻訳の奥の深さを改めて知り、さらに翻訳の面白さも再発見しました。備忘録としてブログにまとめてみました。これから読み進めて、「これは!」と思うことがありましたら、再びブログに書いてみようと思います。

 

最後に考察として、『英文翻訳術』がコミュニケーションを目的とした英語教育に役に立つとしたら、複雑な文章を基本形に変換して理解しようとするところでしょうか。多くの英語学習者が難しいと思うのは英語的な言い回しで、それを簡単な文章に置き換えることで理解が深まりそうです。経験上、難しい文章をその まま直訳して理解しようする場合が多いので、一端簡単な文型に置き換えて文章を理解するステップを踏めば、英語で考える思考の前段階になると思います。本 当の意味で翻訳の技術を英語教育に活かすとは、このようなことを言うのかもしれませんね。