The Sun also Rises.

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中国における香港オキュパイセントラルの影響

中国共産党政府が香港市民に対して2017年に行われる香港特別行政区トップ・行政長官選出は間接選挙ではなく直接選挙を実施すると発表したが、中身が中国共産党の息のかかった候補者しか立候補できない選挙が明るみに出て以来、香港のニュースを集中的に見続けています。当初のデモはそこまで大規模ではなかったのですが、香港の金融街を占拠するオキュパイセントラルが発動しさらに香港警察が催涙弾をデモ隊めがけて発射したあたりからデモの規模が拡大していきました。香港デモが発端となり中国にも民主化運動が広まるかもしれないと思い、エコノミスト紙やNYタイムズ紙をチェックしている中、中国におけるオキュパイセントラルの影響についてNYタイムズ紙に非常に興味深い記事があったので翻訳を兼ねてブログにしてみました。

 

"Support for Protesters Is Hard to Find on the Streets of Beijing"
By ANDREW JACOBS  OCT. 9, 2014
http://www.nytimes.com/2014/10/10/world/asia/in-beijing-young-chinese-see-little-to-cheer-in-hong-kong-protests.html?_r=0

 

香港デモの影響で天安門事件のように民主化を求める声が中国でも起き始めているのかと思いきや声高に香港デモを非難する声が上がっている様子。北京で取材活動をしたNYタイムズの記者によれば、特に海外留学を経験してVPNを使いグレイト・ファイアーウォールを乗り越えて世界の情報を検閲なしに見ている80后(1980年代以降生まれ)世代がオキュパイセントラルを激しく非難しているようです。

 

彼らのオキュパイセントラルに対する非難をまとめると以下の通りになります。

①香港の金融街を占拠し経済にも影響が出ている。香港の若者は自己中心的だ。

②欧米各国が裏で糸を引いているデモに違いない。

③デモは軍隊によって鎮圧されるべきだ。

④社会を良くしようと主張しているのに市民的不服従により社会を混乱に陥れている。偽善的すぎる。

香港人は中国人を馬鹿にしている。貴金属店だけが中国人に優しくしてくれる。

⑥民主主義が無政府主義になってしまうかもしれない。

香港人普通話を話し中国経済に感謝するべきだ。

香港人は甘やかされて育った出来損ない。

 

※「香港人普通話を話すことを拒絶している奴ら」と非難していることに北京市民が持っている「ナショナリズム」を感じてしまいました。中国各地でその 土地の方言を日常的に使っているのは香港だけなのでしょうか。それとも広東語は中国国内でも異質な言葉と映るのでしょうか。ここに引っかかってしまって。

 

このように彼らは香港学生が求めている民主主義には全然共感していないんです。本来80年代生まれは欧米文化の洗礼を受けた世代で民主主義を受け入れるものと思われていたのですが、特に20代、30代は愛国主義的。中国共産党が13億人の人民を守る存在と信じている模様。彼らの特徴は条件反射的に中国共産党に対する非難を中国に対する攻撃とみなすところ。中国共産党に不信感を感じていない理由は、海外留学ということからもわかる通り中国共産党の経済政策の恩恵を受けてきた人たちだから。

 

しかし香港デモを声高に非難する若者がすべてを物語っているとするのは結論を急ぎすぎだとするアナリストもいます。中国国内で民主化の動きが表れにくい理由は以下の通り。

 

①同じく海外留学をした人でも海外留学組と民主化の話をすると前述の理由のように人間関係に支障をきたすので語ることが出来ない。

②ネット検閲により香港デモを支持するコメントが削除されている。さらに公安が香港デモ支持者を拘束している。

"Detentions of Hong Kong Protest Sympathizers Reported in Mainland"

http://www.nytimes.com/2014/10/02/world/asia/hong-kong-protest.html?_r=0

③おそらく支持者は多いが、立場を表明することは危険。

 

「立場を表明することは中国で危険」は、香港デモを激しく非難する側にとっても同じで、実際にNYタイムズ紙の記者が香港デモを激しく非難していた若者に取材をしようとしても予定されていた取材を突然キャンセルされたり身元を明かさないことを条件の取材ならできると言われることがあったそうです。彼らが理由として言ったのは欧米メディアに協力していることが明るみにでれば騒ぎになるとか何も言わない方が安全だということ。彼らの態度は香港学生が忍び寄る中国共産党の影響に脅威を感じていることと本質では同じなのではとアメリカ留学から帰ってきた女性に尋ねたところ返ってきた答えが「NYタイムズ紙は中国のことを全くわかっていない。時には何も言わないことにも理由があるんです」、と。

 

最後のアメリカ留学から帰ってきた女性が話した英語の原文はこれ。

“You just don’t understand China,” said the woman, a political science major. “Sometimes it just makes sense to keep your mouth shut.”

 "to make sense"の意味は、「何か理由がある」というようなニュアンス。ロングマンでは、"if something makes sense, there seems to be a good reason or explanation for it."となってます。つまり中国人が沈黙する時には何かしらの意味があるということ。民主化に賛成している人が黙り、民主化に反対の人も沈黙する。それが中国という国。歴史が物語っているんでしょうね。