The Sun also Rises.

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孔子学院 <中国政府のソフトパワー戦略>

中国や台湾について知りたく中国語を習い始めて2年以上が経ち、継続的に中国語を学ぶために地元の大学に設置されている孔子学院に通学することを検討している矢先にThe Economistにちょっとショッキングなニュースがあり思わず読んでしまいました。


 

 日本語の記事が日本経済新聞にありました。さらっと読んでみたらThe Economistの記事を翻訳しただけに見えてしまいまして^^;


 

孔子学院をご存じない方には福島香織さんの記事が参考になります。


 

The Economistの記事の内容はというと2014年9月25日にシカゴ大学が同大学に設置している孔子学院との契約を延長しないことを決定したというもの。理由は孔子学院がキャンパス内で自己検閲をし「学問の自由」を脅かしているため。また中国共産党孔子学院を経由してダライ・ラマの招致を妨害し取りやめさせたようにその影響を大学に及ぼそうとしている懸念があったためとか。それが大学教授からの反発を招いた。実際にThe Economistの記事にシカゴ大学のMashall Sahlins教授が欧米の孔子学院について詳細な報告をThe Nationにまとめた記事があったので読んでみたところ、中国共産党がどのようにソフトパワーを行使しようとしているのかの一端が見えてきました。中国歴代王朝が異民族を漢化していった過程を現在の中国政府も踏襲していそうです。

 

 

1. 孔子学院の役割

 

a) ブリティッシュ・カウンシル、ゲーテ・インスティトゥート、それにアリアンス・フランセーズのように孔子学院は中国政府が無料で派遣する中国人講師による中国語の学習を通じて中国文化の理解と普及のために設立された組織が建前だが、実態は中国政府による海外向けにソフトパワーを行使するための一機関。中国の王朝が異民族を漢化していったように徐々に中国の価値観を浸透させていくような手法。

 

b) 教える内容は簡体字による中国語学習、中国文化、ビジネス、それに研究は現代の中国に限られる。一見「簡体字による学習」が無害の項目に思われるが、これが「トロイの木馬」にもなりうる。繁体字がカリキュラムにないので台湾、香港、マレーシア、その他中華圏の情報、中国人民共和国以前の歴史から切り離される。つまり中国関連情報が中国共産党の手によるものになってしまう。

 

 

 

2. 孔子学院による言論統制

 

孔子学院のクラスには禁止ワードがあり学生がその禁止ワードを討論しようとしたら中国人講師が話を変えるか中国共産党の公式見解を述べるように訓練されている。孔子学院のキャンパス内は中国国内と同じ言論統制がされている。孔子学院の壁にダライ・ラマの肖像画さえも掲げられない。よってクラスで話されることは中国についての良いイメージのみ。

 

禁止ワードリスト

 

1.チベット問題(ダライ・ラマ含む)

2. 台湾問題

3. 新疆ウイグル自治区問題

4. 天安門事件

5. ブラックリストになっている著者

6. 人権活動家

7. 政治犯

8. 民主主義

9. 為替操作

10. 中国共産党内の派閥闘争

11. 公害

12. 法輪功

13. 普遍的価値

14. 言論の自由

15. 中国共産党の歴史的失敗

 

※表に出てくることは氷山の一角で実際にどのように孔子学院が運営されているのかは中国政府内の内輪のみで通用する決まりに従っている。

 

3. 中国共産党による孔子学院の監視

 

シカゴ大学孔子学院は、副所長である人民大学から赴任した教授に実質的に監視されている。その副所長が孔子学院すべてを統括する漢弁(国家漢語国際推広領導小組弁公室)に逐次報告している。漢弁は中国共産党中央政治局の管轄下にある。

 

孔子学院の予算の使い方にも漢弁の許可が必要であり、10世紀の中国美術を研究しようとした時、漢弁の事務官に契約上現代中国の研究にのみ助成金が支給されているという理由で却下された。漢弁の基金を使い中国に関する研究を行う研究者は中国政府の承認なしでは研究ができない。

 

さらに漢弁が中国語のカリキュラムとテキストを決めている。

 

4. 米国の大学が孔子学院と手が切れない理由

 

a) 米政府が米国の大学の外国語学習と地域研究の予算を47%カットしたことで中国政府が無料で中国人講師や予算を提供する孔子学院が非常に魅力的に感じられている。さらに中国政府は中国に留学したい学生に奨学金も提供し、孔子学院のスタッフには豪華な食事付きの出張旅行まで用意されている。

 

b) 孔子学院が言論の自由や学問の自由を損なっている現状があるが、中国の経済が重要であり中国政府と問題を起こしたくない。

 

c) 米国の大学にとって中国人留学生が経営上無視できないレベルにまで増えている。

 

最後にThe Economistの記事のタイトルの"About-face"の意味するところが結語として末尾に書かれています。

 

Those talks clearly have been difficult given the air of concern on campus about the institute. Perhaps they could yet resume after some smoothing over of hurt feelings. Or this could be the university’s face-saving way of saying no to Confucius.

 

キャンパス内の危惧する声を考慮に入れると(孔子学院を再開するのは)明らかに難しいだろう。おそらくほとぼりが冷めた後孔子学院を再開する可能性もある。それとも孔子にNoと言ったのはシカゴ大学の面子の問題だったのかもしれない。

 

シカゴ大学孔子学院を閉鎖する決定はまさに面子の問題だったというのが真相の様子。孔子学院側(中国人)が自分たちの面子が潰されたのでそのお返しに内幕を共産党機関紙、解放日報に暴露(日経新聞記事参照)したことでシカゴ大学の面子が潰された。その結果シカゴ大学は面子を保つため閉鎖を余儀なくされた。まさにAbout-face。「面子」を軸に記事を書くThe Economistの腕に感服いたしました。

 

日本の孔子学院へ通学を検討した際に驚いたことは授業料がかなり安いこと。語学学校の半額以下。そういう魅力の背後にはソフトパワーの力があったのですね。福島香織さんも書いているように孔子学院は中国のソフトパワー戦略の場だということをわかった上で受講すれば中国という国の考え方がどのようなものかがわかりそうです。